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「スピーチ」

 スピーチをするときは原稿をつくり、極力覚えてから会に臨む。作家の故丸谷才一さんの流儀だった。失言を防ぐためでもあるが、何よりも集まった人々とともに「一夕の勧(かん)を盡す(つくす)」ことを大切にしたものだ。

 スピーチを文学にしたと評された。その作品を収録した『合本 挨拶はたいへんだ』に、「十四番目に」という小品がある。ある文学賞を受けて謝辞を述べるのだが、丸谷さんの前に13人話す。聴衆はへとへとだろうからと、うんと短くした。文庫本で6行。これも原稿をつくった。

 人前で話すということに関心が集まっている。五輪招致の時のプレゼンは今も話題だ。自己表現の力が試される時代である。季刊誌「考える人」の最新号は「人を動かすスピーチ」の特集。ネット全盛の時代だからこそ血の通った言葉が求められている。

 チャーチル、ケネディ歴史的演説からスーパーの社長の朝礼まで題材は幅広い。日本の「生ぬるいスピーチ文化」を特集は憂う。往々、長くて退屈な挨拶がまかり通る。「とりわけ政治の言葉をもっと磨いてほしい」
 確かに名演説というものを久しく聞かない。公式の場では官僚の作文を棒読みする。内輪の会合では気が緩み放言する。外交史家の細谷雄一さんが特集の中で鋭く指摘している。失言の多い政治家とは知性の足りない人なのだと。

 丸谷さんは常に精魂込めてスピーチ一をした。作家の知性には及びもつかないが、その姿勢は学びたい。


2013.10.4 朝日新聞「天声人語」より
(ishii morio)
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by kamonomiyamini | 2013-10-05 06:17 | ishii morioの独り言

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